梅雨が明けたと思ったら今年の8月は例年以上の猛暑で、東京でも連日のように熱中症の救急搬送が報道されていますが、9月になっても油断は禁物です。熱中症もさることながら、新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)に関する報道がない日はありません。
そして今年の熱中症はコロナとの鑑別が必要という意味で従来と違った意味合いをもっています。熱中症とコロナは発熱の他にも頭痛、倦怠感、筋肉痛、関節痛など共通した症状が多く見られ鑑別に苦慮する場合が少なからず存在します。どちらかわからない場合は医療従事者はコロナとして対処せざるを得ず、酷暑の中防護服に身を包んで診療に当たらなければなりません。その労力は想像に余りあるものであり、なおかつ何倍もの人手がかかり病床も占有し医療崩壊を後押しすることにもなりかねません。
熱中症は予防しうる病気です。
① 屋外では直射日光を避け、室内ではエアコンで室温を適温に保つ。
② 水分補給をこまめに行い、脱水を防ぐ。
これだけのことでほとんどの熱中症を予防することができます。
脱水に対する注意は特に大切です。人間の体の60%は水分でできています。全体の水分量の1%が失われるとのどの渇きを感じ2%でめまい、吐き気などの症状が現れ10%で筋肉のけいれん、失神などの危険な状態となり20%で死に至ります。
体内の水の量とともに大切なのが体液の浸透圧です。体液の浸透圧は0.9%の食塩水(生理的食塩水といいます)とほぼ同等なので補給する水分は真水と生理的食塩水の間の塩分濃度が適当ということになります(真水では薄すぎ生理的食塩水では濃すぎます)。市販の経口補水液でももちろんかまいませんが、自分でも簡単に作れます。500mlの水に食塩1.5グラム、砂糖適量(20グラム位)を入れレモンなどで好みの味付けをすれば出来上がりです。
人間が一日に必要とする水の量は大人でおおよそ
30歳未満 40ml/kg/日
30-55歳 35ml/kg/日
56歳以上 30ml/kg/日
ですが発汗量に応じて増量することが必要です。
一日に約2.5リットル必要だとすると食物に含まれる分(約1リットル)を除いた約1.5リットルを飲み物として摂取することが必要になります。吸収をよくし腎臓に負担をかけないようにするためには、こまめに水分補給することが大切です。
室温はエアコンの設定温度で大体の数値で表すことができますが、水分の量はそうはいきません。のどの渇き、尿量などを参考にしますが、高齢者ではのどの渇きを感じにくくなるので注意が必要です。腎機能に大きな問題がなければ余分な水分は腎臓が尿として排泄してくれます。早目の水分補給を心がけましょう。
病気の予防の知識を持つことと実践することとは別物です。自分は大丈夫と油断せずに正しい知識を持ちかつ実践するよう心がけましょう。
自らの健康を守ることが救急医療をまもることにつながります。
令和2年9月発行 救急便り124号より
やはの内科胃腸科クリニック 矢羽野 壮光 先生 |