お知らせ
急性腹症の一つに胆石症があります。これは胆石に伴う腹痛発作のことで、近年食生活の欧米化に伴い脂肪の摂取量が増えて、潜在的に胆石を保有している方が増加しています。多くは無症状なのですが、ひとたび症状が出始めると疝痛(せんつう)発作といって、右季肋部(右側肋骨の下部あたりになりますが)の激痛発作に見舞われます。 肝臓で作られた胆汁という消化液は胆管を通って十二指腸に排出されるようになっています。胆嚢(たんのう)は、胆管の途中にあるイチジク状の袋で、その中には胆汁が貯められていて食事特に脂肪成分を多く含まれた食物が胃に入ってくると反射的に収縮して胆汁を十二指腸に押し流すという役割を果たしています。胆石は、この胆嚢(たんのう)の中の胆汁が濃縮して胆汁成分が結晶化してできた結石です。普段は無症状なのですが、この結石が胆嚢(たんのう)頚部に陥頓して内圧が高まったときに疝痛(せんつう)として発症します。これに炎症を伴うと胆嚢(たんのう)炎として発熱も伴います。 胆石・胆嚢(たんのう)炎の治療は一時的には絶食・抗生物質投与により症状も落ち着きますが繰り返す場合には、手術が必要になります。 以上は胆嚢(たんのう)内にできた結石(胆嚢(たんのう)結石)ですが、胆管にも結石ができます(胆管結石)。胆管内胆汁鬱滞(うったい)による胆管結石、あるいは胆嚢(たんのう)結石が胆管内に墜落してきた胆管結石などです。実は胆管結石の方が本当は怖いのです。胆管結石は、細い胆管内にあるわけですから、胆嚢(たんのう)内に比べて容易に胆管内につまり胆汁の十二指腸への流出を妨げてしまいます。痛みの発作を伴うことは少ないのですが、胆汁の流出が滞ると黄疸(閉塞性黄疸)症状が出てきます。眼球結膜や皮膚が黄色くなってくるのです。また同時に便の灰白色化(実は便の茶色は胆汁内のビリルビンの色なので、胆汁が十二指腸に排出されなくなると便の色が茶色に染まらなくなるのです)が起こります。さらに炎症を伴ってくると胆管炎を併発して、高熱(39℃以上)及び悪寒・戦慄(せんりつ)を伴ってきます。胆管炎は非常に恐ろしい病態で、放置すると敗血症を併発して死に至ることもあります。しかし近年では、強力な抗生剤の開発や内視鏡的胆道ドレナージの技術の進歩により助かるようになりました。胆管結石の根本的治療は結石の除去です。以前は開腹手術で胆管を切開して結石除去を行っていましたが、近年では、内視鏡的に十二指腸の胆管出口を拡張して結石を取り出すことが可能となっています。 食後の突然の右季肋部疼痛(きろくぶとうつう)発作や右背部痛・圧迫感の場合は、胆石発作の可能性があります。特に高熱・悪寒戦慄(おかんせんりつ)を伴っている場合は、胆管結石・急性胆管炎併発の可能性が高く、緊急の胆管ドレナージが必要となりますので、消化器外科・内科のある救急病院を受診してください。平成28年6月発行 救急便り107号より 多摩南部地域病院 副院長 重松恭祐 |